堤山の家

敷地の木で造った、眺望を楽しむ家

伝統の技で組み上げた木組み
森の大きな木の下にいるような気持ちになります

ピクチャーウィンドウから見える眺めは
家に居ながらにして自然の中にいるかのよう

伝統構法で木を活かしながら
ナチュラルでシンプルな空間を

甲斐駒や鳳凰三山。南アルプスの山々の大パノラマが目の前に広がる斜面に建つ家です。「シンプルな平屋の家をこの予算内で、ということだけなんですよ、親方にお願いしたのは。それがこんなすごい家になるとは!」とSさん。親方はかねてから、木を活かす伝統的な手法を使いながら、昔ながらの家とはまた違った、ナチュラルですっきりした、のびやか空間をつくりたいと考えていました。それを実現したS邸は、鈴木工務店の代表的な施工例のひとつとなりました。

敷地の木を伐採して
家の構造材に

敷地を見た親方はまず「ここの木を何本か伐って、構造材に使おう」とSさんに提案。敷地の南部分のスギやアカマツの木の何本かを伐採し、皮を剝いてその場で天然乾燥する。それが、この建築工事最初の仕事となりました。伐採して明るくなった南面と、南アルプスの山々を望む東面とに大きな開口部をとり、家に居ながらにして外の光や緑や眺望、四季折々の自然が感じられるように計画しました。

深く出した軒に守られた
塗装をしない無垢の板壁

外壁は、塗装していない、自然な色のままのスギの板壁です。板の合わせ目を見せない、美しい外観をつくり出すために、細い角材を打ち付けています。「こんなに細い角材を一本一本、小さな真鍮の釘で何カ所も打って留め付けていて、それをすべての板の合わせ目に打っているのをみて、ああ、ここまで丁寧にしてくれるんだ!と、感動しました」とSさん。

夏の直射日光を遮り、冬の低い陽射しを室内に取り込む深い軒が、この板壁の保護にも役立っています。時間が経つにつれて味わいや深みが増してきて、今のような落ち着いた色になっています。

板の合わせ目に打ち付けられた細い角材が、繊細な外観をつくりだしている

母家から物置まで一続きの架構で
玄関ポーチの空間を

玄関と向かい合わせに畑作業などに使う外物置をもうけ、母家からの屋根を延長してそこまでさしかけました。家に入る手前で雨に濡れた傘や上着を脱いだり、畑で収穫した野菜や薪を取り込んだり、夏冬で履き替えるタイヤを置いたりするのにとても便利です。

左手に玄関扉、右手に外物置。扉の把っ手も自然な木の枝を使った。

庭の木が梁になった木組みが
見えている空間

玄関正面の板戸をあけると、細かく部屋には分かれていない、大きくひとつながりになった木の空間が広がります。大黒柱の手前まではリビング。丸太の皮を剥いて荒く削ったアカマツの梁が重なり合う木組みが、そのまま見えています。その自然な木の表情が、庭にあった木がここに使われているということを感じさせます。

木組みにもさまざまなやり方がありますが、柱の先が梁と軒桁(のきげた)を貫通し、ガッチリ強固に組める「折置組(おりおきぐみ)」を採用しています。家の外にまわると、この組み方に特有の軒下に梁の端が飛び出した「渡り腮(わたりあご)」が見えます。

「折置組」は木が重なり合う部分の加工が多く、手間がかかるだけでなく、技術的にも高度な組み方です。接合金物を使うのが一般的になってからは、あまり用いられなくなった組み方ですが、鈴木工務店の伝統工法仕様では、強度面での安心感があるこの「折置組」を標準仕様として採用しています。

リビングの照明器具は、梁と似た雰囲気の木に埋め込んだ親方考案のもので、木組みを引き立ています。「ここに生きていた木が、梁となって家を守ってくれている安心感がありますね」と、Sさんは木組みを見上げて言います。

梁の表面には、はつった跡が見える。照明カバーも、この梁の雰囲気に合わせて作ったオリジナル。

木が薪ストーブの輻射熱を蓄え
厳冬期でも室内はあたたか

冬には、リビングとアトリエの境のれんが敷きのスペースで薪ストーブを焚きます。厳冬期は外気がマイナス10度になる日もありますが、生活空間全体が充分にあたたまります。

「冬は毎日火を焚くので、昼間留守にしていても、家に帰って来た時にも木が蓄熱しているのか、やんわり暖かいです。木がふんだんにあるのがあたたかさを保ってくれている気がします」とSさん。開口部が多く、壁は少ないのですが、入るところには「パーフェクトバリア」というペットボトルを原料とした断熱材を入れています。いわゆる高気密高断熱の家ではありませんが、ふんだんに使った木がストーブの生火のあたたかさを蓄熱してくれるので、この寒い八ケ岳でも十分にあたたかく過ごすことができます。

出窓にして通風を確保した
ピクチャーウィンドウのアトリエ

ストーブの向こうは、アトリエです。上部がロフトで、その床がアトリエの天井にもなっています。天井がある分、床をリビングより一段下げたので、圧迫感のない、広々とのびやかな空間となりました。

庭に望む大きな窓は、出窓になったピクチャーウィンドウで、庭の四季の移り変わりが日々、まさに絵巻物のように展開します。出窓が張り出している横の部分に開閉できる窓をつけたので、大きな窓はあかなくても、室内には気持ちのよい風が通ります。

南アルプスの雄大の景色を望む
仕事スペース

家のいちばん奥は、デザイン関係のお仕事をされているSさんの作業スペース。全体にゆるくひとつながりになっているこの家で、この奥の作業スペースとの間だけは建具を入れて仕切り、仕事空間と生活空間とを分けるようにしました。自宅でお仕事をする方には必要なけじめです。

仕事机は右端の一角にまとめ、あとは南アルプスを望む大きな窓に面してソファーだけを置いています。仕事の合間にここで山を眺めるのが、気分転換ともなり、アイデアの着想にもつながるのだそうです。

この家一番のビューポイント。東に南アルプスの雄大な姿を眺める。

予想を上回って
どんどん良くなる

工事を振り返ってSさんは「実際に着工して工事が進んでいくにつれて、打ち合わせ当初よりどんどん良くなっていく、その度合いが予想を超えていて、びっくりしっぱなしでした」と言います。

「大まかな希望は言ってくれて、あとは任せてもらえたから、のびのびやれたよね。任されるともっとよくしてやろう!と張り切る。それが職人というものさ」と親方は言います。

「住み始めて年月を経るにつれて、白っぽかった木の色が落ち着いた色になじんで、ますますいい雰囲気になって、ほんとに住んでいるのが嬉しいです」とSさん。敷地の木を伐って造った木組みの家が、愛着をもって住まわれていることが、Sさんの笑顔から伝わってくるようでした。

外壁はあえて塗装していない。経年変化とともに、味わい深い色を醸し出している。

深く出た軒が、建物を雨や陽射しから守る。

スリットから入る光が靴入れの天板にさりげなく飾られた小物たちを照らし出す玄関。土間に、黒い石を埋め込んだ。

台所。北側の窓は家事をする手元が明るくなる程度に小さく抑えた。カゴ使いなどで、見えていても大丈夫な収納を工夫。

天窓から光が射し込む屋根裏の寝室は、まるでアルプスの少女ハイジの世界!

大きなピクチャーウィンドウの両端に、開閉できる通風窓をつけた。右手の階段からロフトの上がる。

日当りのいい場所を上手に移動するネコ。

Sさんの仕事場。パソコンに明かりが入り過ぎないよう、ロールスクリーンで遮光する。

Sさんがデザインした鈴木親方の名刺。

取材・文: 持留ヨハナエリザベート
撮影: Shuhei Tonami
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